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ソフィ カル「限局性激痛」を観た

原美術館に初めて行きました。f:id:poyocha:20190120233113j:image

現代系の美術館なことも行って初めて知った。今はソフィ カルの『限局性激痛』の展示をやっているのだけど彼女の名前も初めて知りました。美術に関して専門的な知識や深掘りする興味は全然無いものの、こういう美術館の展示はなんか好きだな〜ぐらいのレベルの女のアウトプットです。ネタバレ(というのか)です。

 

作者の名前も知らないので当たり前のようにこの展示の前知識はなし。後から説明を読むとこの個展は昔一度開催されていて、今回19年ぶりにフルスケールでの再現が行われたものらしい。

内容は簡単にいうとソフィ カルの失恋体験。彼女が日本に3ヶ月留学することになり、最愛の恋人と離れている間の旅行中の写真や実際の手紙、切符などの展示が第1部。そしてようやく再会出来るところでその恋人には振られてしまった時の絶望感と、その傷を癒していく経緯が写真と布に刺繍された文章で語られる第2部、で構成されている。

タイトルからなんとなくわかるけどまあこのカルの失恋のショックは凄い。この日本滞在中の様子である第1部は、結局はカルが最終的にフラれたことが如何に地獄に突き落とされた感情だったかを、観る人に共感させたいが為のよう。展示一つ一つに「XX DAYS TO UNHAPPINESS(不幸まであとXX日)」と書かれたスタンプが順に押してある。最悪の日までのカウントダウン。1日ずつ追っていくことで、観る側にこの失恋ストーリーを伝えようとする気迫が凄い。別れた後も観れてしまうLINEのアルバムの写真的な……この頃はこうだったのに……この時にはもうあいつはすでに……と恨み辛みをとにかく共感させてくる感じ……絶対何かしらで別れるのが最初の92日の時点であらかじめ分かってるから観るのが怖い。まだ"愛してる"とか書いてある彼の手紙とか。再会の日のドレスを数時間かけて選ぶ写真とか。会えないんだけど。

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カフェで食べれるイメージケーキ。最悪の日まであと19日。食べ辛いわ!(と母が言った)

 

92日の日本留学を終えて、まあ、そう会えないんですよね。再会の場所はインドのデリー。もうこれ別れてからの第2部に死ぬほど出てくる単語。再開出来なかった待ち合わせ場所のデリー。一生忘れん。それが分かるのが「最悪の日まであと1日」スタンプが押された彼からの手紙。彼は事故のため来れなかったから、医者の父に連絡しろという手紙を空港のスタッフから貰うんですよ。でも結局それは嘘で。

「カルは大急ぎで父親に連絡したが、結局連絡がつくまで10時間かかった」「彼は確かに病院には行ったけど、それは皮膚の肉に爪が刺さったのを抜くためだった」「結局、最終的には電話で"好きな人が出来た"と伝えられて終わった」これが結末。これだけ。これを第2部でカルは何度も何度も語りかけてくるんですよ。これはグレーの布地に白い文字でびっしりと刺繍がしてあります。

嫌でもこれはショックと腹立ちのダブルパンチだよな……とにかく誠実じゃない。この浮気男はカルとの別れ話に対してあまりにも不誠実だった。手紙にて嘘をついたが、病院には行っていたことで全くの嘘ではなく、ただしその理由は肉から爪を抜くだけ、というしょうもなさ。直接話すのも嫌だと思われていたこと。デリーまでの交通費を出すのも渋られたのだと分かること。自分はそれまでの女だったということ。女側をとことん惨めにさせてくる別れ方です。

カルはこの話を色んな人にします。自分がどれだけ不幸であるかを。もちろん鑑賞してる人間にも共感させてきます。その代わりに話した相手には、その人の辛かった経験を聞かせてもらいます。カルは何度も何度も色々な人にこの話を伝え、その分沢山の人の辛い思い出を語られます。その話も重い。ほぼ大体大事な人が亡くなった話。自殺とか事故とか。これが全部刺繍なんだよね。一部屋にずらっと飾ってあって綺麗です。

そして面白いのが、この話をずっとしているうちにこの内容は、刺繍の文字はどんどん量が少なくなっていくんですよ。最初は大きな布にびっしりと細かく書かれてたこの日の別れの話が、だんだんあっさりと。刺繍の糸の色も変わっていきます。白から布地の色と変わらないグレーに。最後なんて「男に振られた。たったそれだけの話。大したことはない」ぐらいの規模になってる。これはカルの失恋が癒えたんだなあということがよく分かりました。

そうやって見終わった後はああ、辛かったけどどうでもよくなれたんだね、留学期間ぐらいかかったんだねえ、長かったねえ〜〜ぐらいの感想しか抱かなかったんですが、その後色んな解説を読んだんですよ。

これは、よく考えるとあまりにも暴力的な治療だということにハッとしました。自分より酷い不幸を聞くことで、他人の不幸を餌に自分の怪我を癒していく。人の不幸をつまみ出して、自分の不幸を風化させる。

色んな解説を読んであ〜〜〜そういうこと!?!?と感動した。いや少しでもこの展示について知っていたらそういう踏み込んだ考えにも多少辿り着いたのかもしれないけどもうカルに起こった出来事に対して追いつくのに必死だったよ。浮気男の最期の「病院に搬送されました。なのでデリーには行けませんでした。」って手紙もえっうそ死んでもうた……可哀想すぎる……って思ったもん。カルもその手紙を見た時そう思ったらしいので私はカル………。

こういう意図(?)に気付いたあとなんとなく居心地が悪くなるよね。自分達もカルの失恋の治癒に知らぬ間に付き合わされていたこの感じ。そして読む間に自分の嫌な思い出も重ねて引きずり出されるような感覚。め、迷惑〜〜〜〜〜〜!!

でもなんとなく今回初めて知ったカルのことを、可愛いなと思いました。自分の写真も沢山あったからかなあ。綺麗な人です。でも東京で色んなカップルの後をつけて後ろ姿を撮影していたのにはヒッ……ってなりました。

 

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これは私が頼んだいちごのパウンドケーキ。可愛い。

 

同じく全然知らなかった母親とこれを観たんですけど、終わった後2人で凄かったね……なんか、凄かったね……という感想しか出ませんでした。こういうの母親と観るのなんかちょっと恥ずかしいよね……血の繋がった女同士だからさ……なんかね……でも面白かったねって一緒にケーキ食べながら喋りました。

原美術館、2020年になくなっちゃうそうです。他にも変わった現代アートな作品が沢山あるけど全部撮影禁止です。ケーキを食べたカフェも中にあります。全部中庭を観れるような席にしてあって綺麗でした。閉館までにまたもう一度行きたいな!